賃貸で壁に穴・扉を壊したら、退去を待たずに保険会社へ|クロス職人が教える「壊したらすぐ連絡」の鉄則

賃貸で壁に穴・扉を壊したら、退去を待たずに保険会社へ|クロス職人が教える「壊したらすぐ連絡」の鉄則

家具を動かしていて、壁にガツンとぶつけてしまった。
ドアを勢いよく開けたら、ドアノブが壁にめり込んだ。
子どもが遊んでいて、扉を壊してしまった。

賃貸に住んでいると、こういう「やってしまった」は起こります。そして多くの人が、「退去のときに請求されるんだろうな」と思いながら、そのまま住み続けます。

私は本業でクロス(壁紙)と塗装の仕事をしていて、退去後の部屋をたくさん見てきました。壁に家具をぶつけた穴、模様替えで動かしたときの傷、ドアノブが当たったへこみ。どれも、よく見るものです。保険会社に出すための見積書を作ったこともあります。

今回伝えたいのは、これです。住んでいる間にうっかり壊したものは、賃貸の契約で入った「火災保険」で直せることがあります。ただし、壊したら「すぐ」連絡するのが鉄則です。退去のときになってからでは、遅いことが多いからです。

※私は保険や法律の専門家ではありません。この記事は、損害保険会社の公式サイト、日本損害保険協会、国民生活センター、国土交通省のガイドラインをもとに整理したものです。実際に保険金が出るかどうかは、あなたが入っている保険の内容と、保険会社の判断で決まります。

先に結論|部屋の中で何かを壊してしまったら

  1. 賃貸の「火災保険」は、火事のときだけの保険ではない。うっかり壊したものに使えることがある
  2. ただし、うっかりの事故まで出るかは保険会社によって正反対。自分の保険を確かめる
  3. 壊したら、すぐ写真を撮って、保険会社と管理会社に連絡。退去まで待たない
  4. 窓口で「おりないかも」と言われても、請求の手続きは進めてもらう。決めるのは窓口の人ではない
  5. 古くなって傷んだもの・わざと付けた傷は対象外。事故の内容を変えたり、金額を盛ったりは絶対にしない

賃貸の「火災保険」には、部屋を壊したときの補償が付いている

賃貸の部屋を借りるとき、ほとんどの人が不動産会社にすすめられて「火災保険」に入ります。賃貸の契約の条件になっていることも少なくありません。

名前は「火災保険」ですが、中身はいくつかの補償のセットです。この記事に関係するのは、次の3つです。

① 借家人賠償責任(大家さんへの弁償)

借りている部屋を壊してしまい、大家さんに弁償しなければならなくなったときの補償です。この記事の主役は、これです。

② 修理費用(自分で直したときの費用)

借りている部屋のドアや窓ガラスなどが壊れて、大家さんとの契約にもとづいて自分のお金で直したときの費用の補償です。空き巣に玄関の鍵を壊された、飛び石で窓ガラスが割れた、などが保険会社の支払いの例に載っています。

③ 個人賠償責任(ほかの人への弁償)

洗濯機のホースが外れて下の階の部屋まで水浸しにした、など、ほかの人に損害を与えたときの補償です。借りている自分の部屋そのものは、ここではなく①の担当です。

もう1つ、「家財」の補償もありますが、これは自分の持ち物(テレビや家具など)が壊れたときのものです。部屋の壁や床ではありません。

【正直に書きます】「うっかり」が出るかどうかは、保険会社で正反対

ここがこの記事で一番大事なところです。①の「大家さんへの弁償」の補償は、どんな事故まで対象にするかが、保険会社・商品によってまったく違います。

火事・爆発・水漏れだけ、という保険がある

たとえば日新火災の「お部屋を借りるときの保険」は、大家さんへの弁償の対象を火災・破裂や爆発・水ぬれの事故に限っています。公式サイトには、保険金が出ない例として、

  • 室内の模様替えをしたときに、壁紙を破損させてしまった
  • 子どもが遊んでいて、ふざけて障子を破いてしまった

がはっきり書かれています。よくある質問のページでは、掃除機を壁にぶつけて壊した場合も対象外とされています。

「偶然な事故」まで出る保険もある

一方で、損保ジャパンの賃貸向けの家財の保険や、東京海上日動の「借家人賠償責任・修理費用補償特約」は、偶然な事故まで対象にしています。損保ジャパンの公式サイトには、支払いの例として「模様替えをしていたところ、誤って借りている部屋の窓ガラスと壁を破損してしまった」が載っています。

つまり、同じ「模様替えで壁を壊した」でも、ある保険では出ないと書かれ、別の保険では出る例として載っているのです。だから、「火災保険で直せるらしい」という話だけを信じるのではなく、自分が入っている保険の中身を確かめるのが最初の一歩です。確かめ方は、後で書きます。

保険が出ないもの|古くなった傷み・わざと・見た目だけの傷

うっかりの事故まで出る保険でも、出ないものがあります。

  • 古くなって自然に傷んだもの(日焼け、すり減り、さびなど)
  • わざと付けた傷
  • 見た目だけの傷で、使うのに困らないもの(すり傷、へこみ、落書きなど)。損保ジャパンは「部屋の機能が失われたり下がったりしない損壊」を、東京海上日動は「すり傷、かき傷、塗料のはがれ、落書き、へこみ等の外観上の損傷」を、出ない例に挙げています
  • ペットのひっかき傷は、対象外の保険が多いです(「動物によるもの」を対象外とはっきり書いている保険もあります)

職人の目で見ても、「壁に穴があいた」「扉が壊れて閉まらない」のような、使えなくなる壊れ方と、「こすった跡がある」くらいの傷は、まったく別物です。前者は保険の話になり得ますが、後者は保険の対象になりにくいと考えておいてください。

ちなみに、国土交通省のガイドラインでは、部屋の傷みを「古くなったことによるもの」「ふつうに暮らしていて付くもの」「借りている人の不注意などによるもの」に分けていて、借りている人が払うのは3つ目だけです(ガイドライン p.8)。この線引きは、原状回復の線引きの記事にくわしく書きました。保険で直せる可能性があるのは、この3つ目のうち、保険の「事故」に当たるものです。

なぜ「退去まで待たずに、すぐ」なのか

私が一番伝えたいのは、ここです。壊してしまったら、すぐ連絡。これが鉄則です。

退去のときに言っても、間に合わないことが多い

退去の立ち会いで「この穴は借主さんの負担です」と言われてから、「そういえば火災保険が…」と思い出す人がいます。でも、その時点で保険会社に連絡しても、うまくいかないことが多いのです。

  • いつ、どうやって壊れたのかを説明できない。何年も前の傷だと、事故なのか、古くなって傷んだのか、保険会社も判断できません
  • 保険には「事故が起きたら、遅れずに知らせる」決まりがある(保険法14条)
  • 保険金を請求できる期間は3年で、過ぎると時効で消えます(保険法95条)
  • 退去と同時に保険を解約していたり、更新を忘れて切れていたりすることもある

住んでいる間に直しておけば、退去のときに請求されない

もう1つ、職人としての理由があります。住んでいる間に、管理会社と相談して直しておけば、退去のときの請求書にその分が載りません。退去の精算で揉める種が、ひとつ減ります。

国土交通省のガイドラインには、退去後に壁ボードの穴の修理費が問題になった裁判の例が載っています。借りていた人の不注意による穴だったので、修理費の全額(1万500円)が借りていた人の負担とされました。借りていた人は「その修理費は保険を使って払う」と主張していました(ガイドライン p.81・事例17)。退去のあとで揉めるより、壊したときに、その場で片付けておくほうがずっと楽です。

壁の穴を指さしながら電話する禅ちゃん

壊してしまったときの手順

ステップ1|写真を撮って、何があったかメモする

壊れた場所を、近くと少し離れたところから撮っておきます。あわせて、いつ・何をしていて・どうなったかをスマホのメモに残します。「10月15日の夜、タンスを動かしていて、角が壁に当たって穴があいた」くらいで十分です。あったことを、そのまま書いてください。

ステップ2|保険会社(または代理店)に連絡する

保険証券や、契約のときにもらった書類に、事故の受付窓口の電話番号が書いてあります。24時間受け付けている会社も多いです。不動産会社の窓口で入った保険なら、その不動産会社が代理店になっていることもあります。

ステップ3|管理会社(大家さん)に連絡して、直し方を相談する

借りている部屋なので、直す前に必ず管理会社に連絡して、了解をもらってください。黙って自分で業者を呼んで直すと、「勝手に直された」「仕上がりが合わない」と、あとで揉めることがあります。業者を管理会社が指定することもあります。

ステップ4|修理の見積もりを取る

保険会社に出すために、修理の見積もりが必要になることが多いです。見積もりは、実際にかかる金額のままです。必要な書類は、保険会社の担当者が教えてくれます。

ステップ5|保険会社の判断を待って、直す

保険会社が調べて、保険金が出るかどうか、いくら出るかを決めます。たとえば日新火災は、調査が終わって担当者から支払い内容の説明(解決の連絡)があってから、通常1週間程度で支払いと案内しています。保険によっては自己負担額(たとえば損保ジャパンの修理費用は3,000円)があるので、その分は自分で払います。

窓口で「それは、おりないかもしれません」と言われたら

電話をしたとき、窓口の人に「それは対象外かもしれませんね」と言われることがあります。そこで、あきらめて電話を切ってしまう人は多いと思います。

でも、最初に電話を受けた窓口の人が、保険金を出すかどうかを決めるわけではありません。出るか出ないかは、事故の内容を調べたうえで決まります。

だから私は、「とりあえず、請求の手続き(調査)は進めてください」とお願いしていいと思っています。調べてもらって、正式に「出ません」と言われたら、そのときはあきらめる。それで十分です。

ここで大事なのは、「出ないかも」と言われたからといって、事故の説明を変えないことです。あったことをそのまま伝えて、判断してもらう。それだけです。

【やってはいけない】事故の内容を変える・金額を盛る

はっきり書いておきます。

  • 古くなって傷んだものや、わざと付けた傷を「うっかり壊した」ことにする
  • いつ、どうやって壊れたかを、保険が出そうな話に作りかえる
  • 見積もりの金額を、実際より高く書いてもらう

これらは保険金の不正請求で、詐欺にあたります。頼んだ人だけでなく、手を貸した人も責任を問われることがあります。日本損害保険協会は「保険金不正請求ホットライン」(0120-271-824)を設けています。

また、「保険金を使えば、自己負担なしで直せますよ」と業者から勧誘されるトラブルも、国民生活センターが何度も注意を呼びかけています。その中には「うその理由で保険金を請求する」と言われた例もあります。国民生活センターのアドバイスは、すぐに契約しない、まず保険会社に相談する、うその理由で保険金を請求することは絶対にやめる、です。

保険は、本当にうっかり壊してしまったときのためのものです。だからこそ、本当に壊してしまったときには、遠慮せずに使ってほしいのです。

保険の書類を虫眼鏡で読む禅ちゃん

今日できること|自分の保険の中身を確かめる

何かを壊す前に、一度だけ確かめておくと安心です。

  1. 保険証券(または加入者ページ)を探す。賃貸の契約書類と一緒に入っていることが多いです
  2. 「借家人賠償責任」の欄があるかを見る
  3. どんな事故が対象かを見る。「火災・破裂爆発・水ぬれ」だけか、「偶然な事故」「不測かつ突発的な事故」まで入っているか
  4. 自己負担額(免責金額)を見る
  5. 保険の期間(満期日)を見る。賃貸の保険は1年か2年のことが多く、自動で更新されない契約だと、更新を忘れて切れていることがあります。切れている間の事故は補償されません
  6. 事故の受付窓口の電話番号を、スマホに登録しておく

よくある質問

Q. 子どもが壁に落書きをしました。保険で直せますか?

A. 落書きは「見た目だけの傷」として、対象外にしている保険があります(東京海上日動など)。ただし保険によって違うので、まずは保険会社に聞いてみてください。

Q. 洗濯機の水があふれて、下の階まで水が漏れました。

A. 自分の部屋の床などは「借家人賠償責任」、下の階の人の部屋や持ち物は「個人賠償責任」の担当です。水ぬれは、範囲の狭い保険でも対象になっていることが多い事故です。すぐに保険会社と管理会社に連絡してください。

Q. もう退去が決まっています。今からでも連絡したほうがいいですか?

A. 事故が起きた日と状況がはっきりしていて、保険の期間中の事故なら、退去の前に、今すぐ連絡してください。何年も前のことで、いつ壊れたか分からない場合は、出ないことも多いと思っておいてください。

Q. 自分の家具やテレビを壊してしまった場合は?

A. それは「家財」の補償の話です。「不測かつ突発的な事故(破損・汚損)」が付いている保険なら対象になることがあります。こちらも、保険の内容を確かめてください。

まとめ|壊したら、すぐ。正直に。

  • 賃貸の「火災保険」には、大家さんへの弁償の補償が付いていることが多い
  • うっかりの事故まで出るかは保険会社で正反対。保険証券で確かめる
  • 古くなった傷み・わざと・見た目だけの傷は対象外
  • 壊したら写真→保険会社→管理会社の順に、すぐ連絡。退去まで待たない
  • 窓口で「おりないかも」と言われても、手続きは進めてもらう。正式にダメならあきらめる
  • 事故の内容を変える・金額を盛るのは不正請求。絶対にしない

退去のときに「これ、いつの傷ですか?」と聞かれて困る前に。壊してしまったその日に、電話を1本かけてください。

▶️ 退去時のクロス代、全部払う必要はありません|原状回復の線引き
▶️ 退去の立ち会いは断れます|その場でサインしないで
▶️ 退去費用の請求書、クロス職人はここを見る

参考:日新火災「お部屋を借りるときの保険|補償の内容」「よくあるご質問」「事故のご連絡」、損保ジャパン「THE 家財の保険(賃貸住宅入居者向け)」、東京海上日動「借家人賠償責任・修理費用補償特約」「外観上の損傷について」、日本損害保険協会「保険金請求の時効」「保険金不正請求ホットライン」、国民生活センター「「保険金を使って自己負担なく住宅修理ができる」と勧誘する業者に注意」(2018年9月6日)、国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」p.8・p.81。

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